はじめに:自社の目的に合った人材育成支援とは
企業の持続的な成長において、従業員のスキルアップは不可欠な投資です。特に、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進や新規事業への挑戦には、計画的な人材育成が成功の鍵を握ります。しかし、研修にかかる費用は多くの企業にとって大きな負担となります。\n\nこのような課題に対応するため、厚生労働省は「人材開発支援助成金」制度を設けています。この制度は、事業主が従業員に対して職務に関連した専門的な知識や技能を習得させるための職業訓練などを計画に沿って実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成するものです。\n\n本記事では、この人材開発支援助成金の中から、特に現代のビジネスニーズが高い「用途別(DX・リスキリング)」および「業種別(建設業)」の視点から、活用しやすいコースを抜粋し、その概要と申請時の注意点を実務的に解説します。\n\n
【用途別】DX推進・リスキリングに活用できる主要コース
急速なデジタル化や事業環境の変化に対応するため、従業員の再教育(リスキリング)やデジタル分野のスキル習得は喫緊の課題です。人材開発支援助成金には、こうした動きを支援するコースが用意されています。\n\n
1. 人への投資促進コース
デジタル人材・高度人材の育成を強力に後押しするコースです。5つの訓練類型があり、特にDX推進を目指す企業にとって活用価値が高いです。\n
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対象となる訓練例:
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高度デジタル人材訓練(AI、IoT、クラウド、データサイエンスなど)
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情報技術分野の認定実習併用職業訓練(ITSSレベル3・4相当)
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定額制訓練(サブスクリプション型の研修サービス)
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自発的職業能力開発訓練(労働者が自発的に受講した訓練費用の負担)
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教育訓練休暇等付与(有給の教育訓練休暇制度の導入・適用)
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助成額・助成率(中小企業の場合):
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経費助成: 75%
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賃金助成: 1人1時間あたり960円
※助成額・率は訓練内容や企業の規模によって変動します。
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主な注意点: 訓練時間数が10時間以上であることや、対象となる訓練内容に詳細な要件があります。特に高度デジタル人材訓練は、専門的・実践的な内容であることが求められます。\n\n
2. 事業展開等リスキリング支援コース
既存事業にとらわれず、新規事業の立ち上げや事業分野の転換を目指す企業を支援するコースです。新たな分野で必要となる知識や技能を習得させるための訓練が対象となります。\n
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対象となる訓練例:
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新製品の製造や新たなサービスの提供に伴う訓練
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海外事業の展開に伴う、語学や現地法規に関する訓練
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デジタル技術を活用した新サービスの導入に伴う従業員訓練
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助成額・助成率(中小企業の場合):
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経費助成: 75%
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賃金助成: 1人1時間あたり960円
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主な注意点: 申請時に、今後どのような新規事業を展開するのかを具体的に示す「事業展開計画」の提出が求められます。訓練内容がその計画と整合していることが重要です。\n\n
【業種別】建設業に特化した専門コース
特定の業種に特化した支援も、人材開発支援助成金の大きな特徴です。ここでは代表例として建設業向けのコースを紹介します。\n\n
建設労働者認定訓練コース
建設業における技能労働者の育成と技能承継を目的としたコースです。中小建設事業主などが、雇用する建設労働者に認定職業訓練を受けさせる場合に助成が受けられます。\n
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対象となる訓練: 都道府県知事の認定を受けた認定職業訓練(普通職業訓練、高度職業訓練など)
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助成額・助成率:
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経費助成: 対象経費の6分の5
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賃金助成: 訓練を受けた労働者1人1日あたり最大8,550円(若年労働者の場合)
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主な注意点: 助成対象となるのは、都道府県知事の認定を受けた「認定職業訓練」のみです。一般的な研修やセミナーは対象外となるため、事前に訓練実施機関へ確認が必要です。建設キャリアアップシステム(CCUS)の登録・活用も要件に含まれる場合があります。\n\n
申請前に確認すべき共通のポイント
どのコースを利用する場合でも、共通して押さえておくべき重要な注意点があります。これらを見落とすと、助成金が支給されない可能性があるため、必ず確認してください。\n\n- 職業訓練計画届の事前提出が必須: 全てのコースで、訓練を開始する1ヶ月前までに、管轄の労働局へ「職業訓練計画届」を提出する必要があります。訓練開始後の事後申請は一切認められません。\n
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対象労働者の要件: 助成対象となるのは、原則として雇用保険の被保険者です。企業の代表者や役員、個人事業主本人は対象外です。\n
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助成対象経費の確認: 助成されるのは、講師への謝金や受講料、教科書代など、訓練に直接かかる経費です。研修会場までの交通費や、訓練で使用するパソコン等の購入費用は対象外となるため、事前に確認が必要です。\n
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訓練時間中の賃金支払い: 賃金助成を受ける場合、訓練時間中も通常の賃金を支払う必要があります。\n
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正確な書類作成と保管: 申請には出勤簿や賃金台帳など、多くの証明書類が必要です。不備なく提出できるよう準備し、支給決定後も5年間の保管義務があります。\n\n
まとめ:計画的な活用で企業と従業員の成長を
人材開発支援助成金は、多様なコースを通じて企業の研修・人材育成を資金面で支援する強力な制度です。自社の事業戦略や業種、育成したい人材像を明確にし、最適なコースを選択することが活用の第一歩です。\n\n申請手続きは計画的に進める必要があり、特に訓練計画の事前提出は厳守しなければなりません。本記事で紹介した内容を参考に、まずは公式サイトで最新の公募要領や詳細な要件を確認し、不明な点があれば管轄の労働局へ早めに相談することをお勧めします。