IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を支援する上で非常に有用な制度です。しかし、申請すれば誰でも採択されるわけではありません。採択・不採択を分ける最大の鍵は、説得力のある「事業計画書」を作成できるかどうかにかかっています。

本記事では、IT導入補助金の申請における事業計画書の書き方について、具体的な記入例や審査で評価されるポイント、よくあるミスを公式情報に基づいて解説します。

IT導入補助金における事業計画書の重要性

事業計画書は、単にITツールを導入したいという希望を伝える書類ではありません。審査機関に対し、「自社の経営課題は何か」「その課題を解決するために、なぜこのITツールが必要なのか」「導入によって、いかに生産性が向上し、事業が成長するのか」を論理的に説明するための最も重要な書類です。

優れた事業計画書は、補助金が投資に値する有効なものであることを証明する役割を果たします。逆に、内容が曖昧であったり、課題と解決策が一致していなかったりすると、不採択の大きな原因となります。

事業計画書の基本構成と必須項目

IT導入補助金の事業計画書は、主に以下の要素で構成されます。申請する枠(通常枠、インボイス枠など)によって細部は異なりますが、本質的な骨子は共通しています。

  • 自社の事業概要と経営課題: 現在の事業内容と、直面している具体的な課題を記述します。

  • 導入するITツールと選定理由: 課題解決のために導入するITツールの名称、機能、そしてなぜそのツールを選んだのかを説明します。

  • 導入後の事業展開と具体的な効果: ITツール導入後の業務プロセスの変化、それによって生まれる新たな事業展開や顧客への提供価値向上について述べます。

  • 生産性向上に関する数値目標: 導入によって労働生産性が具体的にどれだけ向上するかを、具体的な数値目標(伸長率)で示します。

  • 事業実施スケジュール: ITツールの契約、納品、支払い、事業報告までの具体的な日程を計画します。

【項目別】採択される事業計画書の書き方と記入例

各項目で審査担当者に意図が伝わる、具体的で説得力のある記述方法を解説します。

1. 経営課題の記述

最も重要なのは、課題を具体的かつ定量的に示すことです。

悪い例: 「バックオフィス業務が非効率で、時間がかかっている。」

良い例: 「請求書発行から入金管理までをExcelと手作業で行っており、担当者2名が毎月合計30時間を費やしている。また、手入力による請求漏れや金額ミスが年間5件発生し、顧客からの信頼低下と再発行業務に繋がっている。」

2. ITツールと選定理由

課題と導入ツールが明確に結びついていることを示す必要があります。

悪い例: 「業務効率化のため、人気の会計ソフトを導入したい。」

良い例: 「上記の請求業務の課題を解決するため、クラウド型会計ソフト『〇〇システム』を導入する。本ツールは請求書作成、自動送付、入金消込までを自動化できるため、月30時間の作業を5時間に短縮(83%削減)し、ヒューマンエラーを撲滅できる。複数社のツールを比較したが、当社の既存販売管理システムとの連携実績がある点が決め手となった。」

3. 導入後の具体的な効果

ツールの導入がゴールではなく、その先の事業成長にどう繋がるかを描きます。

悪い例: 「業務が楽になり、社員の負担が減る。」

良い例: 「請求業務の自動化で創出された月25時間分の時間を、既存顧客へのアップセル提案や、新規顧客開拓のためのマーケティング活動に充てる。これにより、顧客単価の5%向上と、新規リード獲得数10%増を目指す。」

4. 生産性向上の数値目標

労働生産性の向上率を具体的な根拠と共に示します。労働生産性は以下の計算式で算出されることが一般的です。

労働生産性 = (営業利益 + 人件費 + 減価償却費) ÷ (労働投入量(従業員数 × 1人あたり年間労働時間))

計画書では、ITツール導入によって、この数値が1年後、3年後に何%向上するかの目標値を設定し、その算定根拠を明確に記述する必要があります。

DX推進の視点を盛り込むためのポイント

IT導入補助金は、単なるIT化ではなくDX化を推進する目的があります。計画書には以下の視点を盛り込むと評価が高まります。

  • 全社的なデータ活用: 導入するツールが単一部門の効率化に留まらず、得られたデータを経営判断やマーケティングにどう活かすかを示す。

  • セキュリティ対策: 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施する「SECURITY ACTION」の自己宣言を行うなど、セキュリティ意識の高さを示す。(多くの場合、申請要件となっています)

  • 将来的な拡張性: 今回の導入を第一歩とし、将来的には他システムとの連携や、さらなるデジタル化を計画していることを示唆する。

申請時の注意点とよくあるミス

  • gBizIDプライムアカウントの未取得: 申請には必ず「gBizIDプライム」アカウントが必要です。取得には2〜3週間かかる場合があるため、公募開始前に準備してください。

  • 目的と手段の混同: 「補助金が使えるからこのツールを入れる」という発想ではなく、「自社の課題解決にこのツールが必要」という一貫した論理を構築してください。

  • 数値目標の根拠が薄い: 「生産性3%向上」といった目標を掲げても、その達成プロセスや算定根拠が不透明では評価されません。

  • IT導入支援事業者の協力不足: 申請はIT導入支援事業者との共同作成となります。信頼できるパートナーを選び、二人三脚で計画を練り上げることが重要です。


■ 参考:IT導入補助金2026(通常枠)の概要

以下は一般的な制度概要です。申請にあたっては、必ず公式サイトで最新の公募要領をご確認ください。

  • 制度の概要: 中小企業・小規模事業者が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助することで、業務効率化・売上アップをサポートするもの。

  • 対象となる事業者: 日本国内で事業を営む中小企業・小規模事業者等。

  • 補助上限額・補助率(例): 1プロセス以上:5万円以上150万円未満(補助率1/2以内)、4プロセス以上:150万円以上450万円以下(補助率1/2以内)。

  • 公募締切(例): 締切は複数回設定されることが通例です。例:X次締切 2026年3月31日(火) 17:00

  • 公式サイト・申請: IT導入補助金2026 公式サイト

説得力のある事業計画書は、時間をかけて丁寧に作成する価値があります。本記事を参考に、貴社のDX推進と事業成長に繋がる申請準備を進めてください。