海外市場への進出は、多くの事業者にとって大きな成長機会ですが、同時に多額の初期投資を必要とします。そこで活用したいのが、国や公的機関が提供する海外展開向けの補助金です。しかし、これらの補助金は申請すれば誰でも受けられるわけではなく、採択されるためには質の高い「事業計画書」の提出が不可欠です。\n\n本記事では、水曜日のテーマ「書類の書き方・記入例」に基づき、海外展開(International export)関連の補助金申請における事業計画書の作成方法を、具体的な項目と記入例を交えながら専門家の視点で解説します。\n\n
なぜ事業計画書が重要なのか?\n\n補助金の審査員は、提出された事業計画書を通じてのみ、事業の価値や実現可能性を判断します。計画書は、自社のビジョンや戦略を審査員に伝えるための唯一かつ最も重要なコミュニケーションツールです。\n\n審査では、主に以下の点が評価されます。\n\n- 革新性・優位性: 提供する製品やサービスが、進出先の市場でどのように差別化できるか。\n- 市場性・成長性: 対象市場の規模や将来性は十分か。具体的なターゲット顧客は誰か。\n- 実現可能性: 計画されたスケジュール、実施体制、資金計画は現実的か。\n- 政策的意義: 日本の産業や地域経済にどのような波及効果をもたらすか。\n\nこれらの点を網羅し、説得力のあるストーリーとして提示することが、採択への鍵となります。\n\n
モデルケース:JAPANブランド育成支援等事業費補助金\n\n本記事では、海外展開を目指す中小企業に広く利用されている「JAPANブランド育成支援等事業費補助金」をモデルケースとして解説を進めます。\n\n- 補助金名: JAPANブランド育成支援等事業費補助金\n- 目的: 海外展開を目指す中小企業者等が、新商品・サービスの開発やブランディング、新規販路開拓等を行う取り組みを支援する。\n- 補助上限額: 500万円(補助率: 2/3以内)\n- 公募締切(想定): 2026年3月31日\n- 公式サイト(想定): 中小企業庁のウェブサイトで公募要領をご確認ください。\n\n※上記は解説のためのモデルであり、実際の公募内容とは異なる場合があります。必ず公式サイトで最新情報をご確認ください。\n\n
【項目別】採択される事業計画書の書き方と記入例\n\n事業計画書は、一般的に以下の要素で構成されます。各項目で何を記述すべきか、具体的なポイントを見ていきましょう。\n\n
1. 事業の背景と目的\n\n**【書くべきこと】\nなぜ今、この事業を行う必要があるのかを明確にします。国内市場の課題、自社の強み、海外市場の機会などを結びつけて、本事業の必然性を説明します。\n\n【記入例】**\n> 当社は伝統的な手漉き和紙の製造技術を持つが、国内市場の縮小により売上が減少傾向にある。一方、欧米のインテリア市場では、サステナブルで高品質な日本の素材への関心が高まっている。本事業では、当社の独自技術を活かした壁紙商品を開発し、フランス市場の富裕層向けニッチ市場を開拓することで、新たな収益の柱を確立することを目的とする。\n\n
2. 対象市場の分析とターゲット\n\n**【書くべきこと】\nなぜその国・地域を選んだのか、客観的なデータに基づいて説明します。市場規模、競合の状況、法規制、文化的な背景などを分析し、具体的なターゲット顧客層を定義します。\n\n【記入例】**\n> 対象市場はフランスとする。同国の高級インテリア市場は年間XX億ユーロ規模であり、特に環境配慮型素材の需要が年率X%で成長している(出典:XX調査レポート)。競合は存在するが、手作業による独特の風合いを持つ当社の製品は、画一的な工業製品との差別化が可能である。ターゲットは、パリ市内の高級ブティックホテルや個人邸宅の設計を手掛ける年商Xユーロ以上のインテリアデザイナーとする。\n\n
3. 事業内容の具体性(実施計画)\n\n**【書くべきこと】\n誰が、いつ、どこで、何を、どのように行うのかを具体的に記述します。事業をフェーズ分けし、マイルストーンを設定すると分かりやすくなります。\n\n【記入例】**\n- 第1フェーズ(1〜3ヶ月目): 現地市場調査、提携候補デザイナーのリストアップ、製品サンプルの改良\n- 第2フェーズ(4〜6ヶ月目): パリで開催される国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」への出展、現地代理店との契約交渉\n- 第3フェーズ(7ヶ月目以降): 代理店経由でのテストマーケティング開始、現地メディア向けPR活動\n\n
4. 実施体制\n\n**【書くべきこと】**\n社内のプロジェクトチームの構成と各メンバーの役割、そして協力してくれる外部パートナー(コンサルタント、通関業者、現地代理店など)について具体的に記述します。体制図などを用いると視覚的に伝わりやすくなります。\n\n
5. 資金計画と経費の内訳\n\n**【書くべきこと】\n事業全体の必要資金と、そのうち補助金をどの経費に充当するのかを明確にします。各経費の積算根拠(見積書の取得など)を必ず示してください。\n\n【記入例:補助対象経費】**\n- 海外見本市出展費: 1,500,000円(小間料、装飾費。XX社からの見積書に基づく)\n- 通訳・翻訳費: 500,000円(パンフレット翻訳、商談通訳。時給X円×Y時間)\n- 広告宣伝費: 1,000,000円(現地業界専門誌への広告掲載料)\n- 合計: 3,000,000円\n- 補助金申請額: 2,000,000円(300万円 × 補助率2/3)\n\n
申請時によくあるミスと注意点\n\n- 目的が曖昧: 「海外で販路を拡大したい」といった漠然とした目的ではなく、「どの国の、誰に、何を売って、いくらの売上を目指すか」まで具体化する。\n- 調査不足: Webで検索しただけの情報ではなく、公的機関のレポートや専門家へのヒアリングなど、信頼性の高い情報源を活用する。\n- 経費の根拠が不明確: 「旅費一式」「コンサル料」などの曖昧な記載は避け、単価や数量を明記した詳細な積算根拠を示す。\n- 独自性の欠如: 自社の強みが何で、競合とどう差別化するのかが語られていない計画書は評価されません。\n\n
まとめ\n\n海外展開補助金の事業計画書は、単なる申請書類ではなく、自社の海外戦略を客観的に見つめ直し、具体化するための設計図です。審査員を納得させるには、情熱だけでなく、客観的なデータに基づいた論理的なストーリー構築が不可欠です。\n\n本記事で紹介したポイントや記入例を参考に、自社の強みと将来性が明確に伝わる事業計画書を作成し、グローバル市場への挑戦を実現してください。